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記事: ラッキー農園

ラッキー農園
四国

ラッキー農園

 土と創る.30 大豊限界突破ショウガ (PDF版ダウンロードはこちらから)


土から掘り出す香り高い自尊心。酒井寿緒の天命


標高650メートルの雲海の棚田で、 手作業で育てる有機JASしょうが

 高知県のしょうがの生産量が全国第1位で、シェア40%を10年近くキープしているのには理由がある。作物は一般に日照量が多いほどよく育つが、熱帯の多年草であるしょうがは高温多湿も好む。高知県は年間日照量と年間降雨量ともに全国1位、年間平均気温は全国5位で、しょうが栽培にまさにうってつけの気候風土なのだ。
 四国山地の真ん中に位置する高知県大豊町は、日本で最初に65歳以上が人口の半数以上を占めた「限界集落」発祥の地。町の面積の88%が森林の急峻な山岳地帯で、棚田や傾斜畑で形成されている。
 過疎化が進むこの町に北海道から移り住んだ酒井寿緒・笑子夫妻は、昼夜の寒暖差が大きい山村で、山頂付近の清涼な湧き水、冷たく澄んだ新鮮な空気、地元の山草・竹・稲わら・もみ殻などを利用した土づくりにこだわり、しょうがとトマトを有機JASで栽培している。2012年のラッキー農園開業時から化学肥料・農薬を一切使用せず、除草や虫取りを手作業で行い、作物を慈しんでいる。


運命の歯車が動き出した35歳

 笑子と札幌で出会ったとき、僕はメッキ工場の派遣の工員でした。僕が一方的に熱を上げて翌年、35歳のときに結婚までたどり着きました。看護助手をしていた彼女の趣味はサーフィンで、北海道の冷たい海を離れ、暖かい種子島でサーフィン三昧の生活を送るという夢がありました。種子島といえば宇宙センターですが、資格もない高卒の僕にできる仕事はなさそうで、別の地を探しました。
 歴史が好きで、昔から四国に憧れていたため、高知はどうかと提案しました。「これからは農業だ」と漫画『美味しんぼ』の影響を受け、たまたま入った漫画喫茶で深い考えもなく、「高知・農業」とインターネットで検索したら、時給900円の求人が出てきました。当時の時給と同額です。すると、笑子はその場で飛行機を予約し、次の週の休みに社長面接に行き、2人分の研修先と家を決めてきました。とにかくすごいんです、行動力が。
 3か月後にはもう高知県に移住し、働き出した先が有機農家でした。『美味しんぼ』の山岡士郎さんから、「有機農業」は学んでいましたが、単に時給で選んだので、有機だったのは偶然です。高レベルの先進的な農家で、社長さんは赤鬼のように雷を落としていました。いま役に立っている知識はそこで覚えたことばかりですから勉強になりましたが、初めての肉体労働はきつかったですね。


「怒られたくないから新規就農しよう」

 笑子は1年経たずに、怪我を機に有機の学校の職員に仕事を移りました。寮に入ったので新婚8か月で離れ離れ、週に1回だけ会う生活で、「何のために移住したんや」と寂しかったです。その辺りから、「農業は好きだけど、使い物にならないと怒られるなら自分でやろう」という気持ちが彼女のなかで芽生えていたようです。初めて経験した農業をもう二人で始めようと考え、新規就農の理由が「怒られたくないから」。びっくりしました。
 「農作業がないときにサーフィンをしやすい、海に近い場所」という笑子の希望の地を求め、休みのたびに県内をあちこちドライブして回りました。県下の市町村で唯一未踏だった大豊町の役場の方と農業機械の研修会で知り合い、いざ畑を見にいき、山や川、棚田があって米が実る日本の原風景に、「日本昔話ってこれだったのか」と、北海道育ちの僕はズキュンときて、当初の目的のサーフィンを忘れてしまいました。効率を心配して不安がる笑子を「みんなと同じことをしていたらだめだ」と説得したようですが、実は全く覚えていません。


透き通った爽やかな辛さが特徴

 しょうがで成功していた赤鬼さんの指導を忠実に実践して栽培しています。しょうがは熱帯性ですが、標高700メートルの寒冷地でも、こぶの一個一個が太い特徴のあるものができました。県で一番メジャーな土佐一号という品種ですが、別の品種のようだと評されます。たくさんの肥料や水でドカンと太らせる栽培ではなく、じわっと自然に育てるとエグミや苦味が出ません。お客さまからは、透き通った爽やかな辛さだといわれます。
 肥料や稲わらも地元のものにこだわり、土づくりをしています。水は標高1400メートルの梶ヶ森頂上付近から引きました。ホースが凍らない深さに掘って500メートルほど埋め込みましたが、「この道路の下に宝物が埋まっているのを俺たちだけが知っている」と楽しい気分になれます。
農業の醍醐味はお客さまからの励ましの手紙と豊作です。2年前の秋、僕は生まれて初めて嬉し泣きしました。種芋が何倍に増えたかを指標にしていますが、例年4〜5倍のところ、おととしは7倍とれたんです。保管庫もパンパンで、金メダルを取って喜びに泣く人の気持ちがわかりました。
なんとなく始めた有機でしたが、お客さまから親戚のように励ましの声や季節のお野菜などが届きます。喜んで、待っていてくださるお客さまのせいで人生が決まりました。期待を受けて応えるという人間としての快感を味わうと、「作れないから農薬を撒くことにしました」なんて言えません。喜ばれるものを追求することが一番になりました。


幸せの連鎖で名付けたラッキー農園

 1年で最も楽しいのは収穫です。刈った草を集め、粉砕してすき込み、肥料を撒いて耕運、畝立て、植え付け。3反の全圃場を見回って丁寧に毎日行う芽出し作業は、丸1日かかります。その集大成が収穫です。猛暑の炎天下、アイスノンを頭に乗せてがんばった作業の日々が走馬灯のように駆け巡り、成果が素晴らしければ嬉しいものです。
 望まれた量をすべて供給できる収量が目標です。圃場の大きさとしては4反、10年後には1町は作っていたい。最近ようやく信用度がちょっと上がり、ここ1、2年で土地が借りやすくなりました。日本だけでなく世界にも販路はあると考えています。ただ、労働力のほうは今年ぐらいが限界です。手伝ってくださる方がいたら、ここに移住してもらいたい。少しでも人が増えればお世話になっている町に多少は恩返しができるかなと思います。
 笑子や農業、この町との出会いのすべてがラッキーですからラッキー農園と命名しました。笑子は幸運の女神。出会わなければ僕はいまでも札幌の工場で、メッキ仕事をしていたかもしれません。

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「限界突破」ブランディング

大豊に暮らす人や訪れる人がゆとりを体感できる「ゆとりすとカントリーおおとよ」の実現を目指す大豊町に対し、「むしろ、日本初の限界自治体という側面の方が面白いと思い、それにちなんだ名前を野菜に付けて知ってもらいたいと考えました。でも、僕らが思いついた限界トマトや限界ショウガは、おいしくなさそうな響きで」と寿緒さん。「素人とは目の付け所が違うプロの方が野菜の前に限界突破とつけてくださったんです。最初は強烈さに違和感があったんですけど、次第にかっこいいと思えてきました」
笑子さんのその後の行動が素早かった。将来、事業を拡大したときのことを考慮し、「限界突破」を商標登録しようと調べ、申請方法を電話で尋ね、自分自身で手続きしたのだ。
「中途半端にできるとロゴも自分で手がけてしまうかもしれませんが、私たちはまるでセンスがないので、プロの方にお願いして、かっこいいものを作っていただきました」と笑子さん。差別化を図り、特徴やこだわりを明確に打ち出したブランディングは、一次産業の活性化にも繋がってゆくだろう。

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