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記事: セーフティフルーツ ファームレターvol.20

セーフティフルーツ ファームレターvol.20

セーフティフルーツ ファームレターvol.20

 土と創る.20 瀬戸田しまなみレモン (PDF版ダウンロードはこちらから)


生まれ育った島に骨を埋めたい。能勢賢太郎の志


瀬戸内の海と温暖な気候が育てる健康レモン

 現在、国内に流通しているレモンのほとんどは外国産で、国産レモンは1割に満たない。輸送に時間がかかる外国産レモンが防カビ剤や防腐剤が使われた未成熟の状態で船積みされる一方、国産レモンは完熟した新鮮なものを市場に出せるという大きな強みがあり、食の安全が注目されるにつれ、需要が高まっている。そのなかで、広島県はレモンの栽培面積・生産量ともに日本一を誇り、国産レモンの半数以上を占めている。そして県内でもレモンを最も多く出荷しているのが、尾道市瀬戸田町である。生口島と高根島のふたつの島からなり、レモンやみかん、ネーブル、八朔といった日本屈指の柑橘類の産地として知られている。  父の代から30年以上、防腐剤やワックスはもちろん、農薬や化学肥料、除草剤を使用せずに健康なレモンやみかんの栽培を続けている能勢賢太郎さんは、瀬戸田町で1%もいない有機栽培農家だ。島の約半分が急傾斜のため、作物によく日が当たる地で、見た目よりも皮ごと食べられる安全性と味にこだわり、柑橘作りに励んでいる。

人と人、農村と都市、生産と消費を繋げたい


栽培の気候条件が厳しいレモン

 瀬戸内が日本一のレモンの産地なのは気候条件が適しているからです。日本で有数の日照時間を誇る温暖な気候で、降水量が少なく、雪もほぼ積もりません。レモンは他の柑橘に比べて寒さに弱く、気温マイナス3度が3時間以上続くと枝の先から枯死していきます。枝にトゲもあるのでキズになりやすく、比較的栽培難度の高い柑橘です。
僕のレモンは、露地の有機栽培のなかではトップクラスのきれいさだといってもらえるんですが、殺虫剤をずっと撒いていないので、生態系のバランスが整っているからだと思います。殺虫剤を撒けば良い虫も悪い虫も殺し、薬に強い虫が生き残り、さらに強い殺虫剤を撒かなければならなくなり、悪循環を招きます。除草剤を撒いた畑には虫がいないから、イノシシは一切入りません。ここはセミの幼虫やミミズなど、いろんな生き物がいる。それらを食べるためにイノシシが土を掘り返し、耕してくれます。柔らかい土は微生物や虫、動物によって作られています。
 僕の家は代々の農家ではありません。親父はトラックの運転手で、この島のみかんを運送していました。無農薬や無添加の食材を販売している関西の方から有機栽培の農産物を求められ、親父は大胆なタイプでしたから、自分で取り組むことにしたそうです。放任園なども預かってきたので、生口島と高根島の条件のいい所から悪い所まで散り散りに畑があります。

 

生まれ育った島で仕事がしたい

 僕が小学校低学年ぐらいのときですから、親父は30代後半ぐらいでしょうか。有機JASに準拠した天然由来の農薬や肥料のみで柑橘全般を栽培し始めました。素人だったから逆にできたのかもしれません。普通栽培の農家が有機に変わるのは、柑橘王国の島では滅多にない話です。農薬を減らした方がいいとわかっていても、きれいなものを作らないといい値段がもらえないから、家の周りのみかんだけ無農薬という普通栽培の人もいます。
他の農家の子どもたちは冬休みにみかん収穫を手伝うとお駄賃をもらえるのに、うちはもらえなかったので、嫌で仕方がなかったですね。大人になったら絶対農家にならないと思っていました。スーツを着て毎月給料をもらう普通のサラリーマンに憧れたんです。でも、大学生の頃に都会で一人暮らしをして思ったのは、自分が生まれ育った所は水も環境もやっぱり肌に合うということです。
 新人営業マンだった社会人2年目に親父と飲んで、「不便だけど理屈抜きでこの島が好きだから、40歳ぐらいになったら戻って仕事したい」と話したら、親父が農家になるきっかけを作った人にすぐ電話してしまい、その会社で勉強させてもらうことになり、2日後には退職願いを出しました。

 

おいしいかどうかは天候次第

有機・無農薬農産物、無添加食品の配達会社で8年ほど働いていたときに、親父の作ったものをお客さんに届けて喜ばれると、親父のやってることってすごかったんだなと感じるようになりました。普通栽培との違いや添加物の何が悪いのかを勉強すればするほどコンビニ弁当を食べることが減り、たまに食べるとお腹をくだして体調が悪くなる。人間の体は食べたものでできているんだなと改めて感じました。
みかんは個性もあるし、やれることはとことん一生懸命やっているけど、結局は味も天候次第。お客さんと直接話して作り手の思いを理解してもらい、対等に意見を言い合える関係を築き上げたいですね。人と人、農村と都市、生産と消費がちゃんと繋がることがすごく大事だと思います。お客さんと繋がって柑橘栽培をして、この島で生きていくことが僕の仕事というか、生きがいです。
メールの問い合わせには電話で対応します。最初は嫌がられますが、友達・親友関係になって正直に向き合いたい。産地偽装などの食品の事件は物と金のやり取りで儲けを重視し、生産と消費が遠すぎるほど起こる気がします。1歳の自分の子が触っても食べても大丈夫なものを一生懸命作るだけでいい。電話は効率が悪いけど、楽しいです。


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シンプルに味わうレモン塩が最高

居酒屋さんもバーテンダーもパティシエもジャム屋さんもお茶屋さんも、能勢さんの畑を見にやってくる。イノシシが耕した大地に草が生え、レモンが木になり、病害虫にあった実や美しいものがサイズも大小混在する状態を見て初めて、一定サイズ以上のものだけ探して収穫する手間や、枝にトゲがあって擦りキズや病気になることなどを理解してもらう。
葉っぱをちぎったバーテンダーが、「レモンモヒートにできる!」と気づいたり、「ベルガモットオイルを作れる」と発想するシェフがいたり。「多様性を発揮していただくためにもプロのお客さん自身に加工してもらいます」と能勢さん。「レモンは見た目勝負で酸っぱければいいから、魚ぼかし肥料をやる必要はないと笑われたんですけど、プロの料理人には、味に奥行きがあると言ってもらえます。安全なものを求める方は、見た目が悪くてもちゃんと買ってくれます。それに甘んじたらいけないので、もっとええもんつくっちゃろうと思いますね」



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