清水ファーム farm letter vol.50
ほどよい甘味と酸味が魅力 希少な有機JAS夏いちご
生食での消費量は日本が世界一だと言われているいちご。日本での生産量は年間約20万トンで、そのほとんどは11月から翌年4月までに温室型で促成栽培される。5月から10月の生産量は1万トン以下で、わずか5%に過ぎない。冬から春に実をつける一季成りいちごに対し、夏から秋にも実の成る品種は四季成りいちご、夏いちごと呼ばれている。 青森県では、夏も涼しい気象条件を逆手に取り、平成20年度に全国に先駆けてプロジェクトチームを設置し、夏いちごの産地化に向けた取り組みを始めたという。夏いちごのなかでは甘く、酸味とのバランスがよい、生食に適した「すずあかね」を青森市で栽培しているのが、月見野の有機JAS取得農家、清水ファームの清水一也さんだ。 自身の会社を譲り、8年前に新規就農。就農当初の2015年からいちごの栽培を開始し、徐々に農薬を減らして2020年には有機いちごの栽培に成功した。妻の満寿美さんとの二人三脚で、にんにくやじゃがいも、さつまいも、落花生、枝豆なども有機で栽培している。
「食べておいしい、安心して食べられる、ということが一番です。日本は肥料や農薬の基準が甘いけれど、その弊害をしっかり正確に伝える必要があるのではないかと思います」と満寿美さん
みんなの健康を願い、個性ある野菜を慈しむ
【清水ファーム 清水一也さん】
社長を辞めて、いちご農家へ
就農したのは8年前、平成27年です。 祖父が創業した従業員400人ぐらいの会社の社長をしていたので、最初は会社の事業として兼業で農業をしようと思いました。食材に興味があり、仕事が少ない時期に野菜を作ってみたいというのがきっかけです。 3年ぐらい両立しましたが、どちらかがおろそかになるので、株主などから反対の嵐で、会社を辞めて専業になりました。会社は弟が継いでいます。 当時45歳で、新規就農者用の補助金は45歳未満が対象だったため利用できず、農業経営に必要な設備や運転資金を全部自分で用意せざるを得ませんでした。お金の面ではきつかったですね。 最初は慣行栽培でいちごを作りました。いちごは労働時間が長いと周囲から言われましたが、高収入という簡単な考えで決めたのです。いちご農家の方が指導と全量買い取りをしてくださり、契約栽培で順調にスタートしました。 昔は食べる一方でしたが、いちごはこんなに薬をかけるのかと自分で作ってみて初めてわかりました。農薬の回数が多くて、自分で作ったのに全然食べられません。2年か3年ぐらい経ってからは、出そうな症状を予測して、予防的に使う程度に薬をチョイスし、だんだんと減らして4年ぐらいで半分以下になりました。
3年前に有機JAS認証を取得
農薬を使わず、安定的に栽培できるようになり、有機JAS認証を取得して3年ぐらいです。 品種はすずあかねです。スーパーに冬のいちごが出始めるときになくなる夏いちごで、5月15日くらいから11月末まで収穫します。果肉が普通より少し固く、食べ応えがあるのが特徴です。いまのいちごは甘くて酸味が乏しいけれど、酸味もちゃんとあり、昔のいちごという感じです。無農薬でできたいちごはおいしくて、どうやって栽培しているかをお客さんに安心して堂々と話せます。 苦労はいっぱいありました。虫に食われる、穴が開く、売れない、ほとんどその悩みです。虫も毎年変わります。それでもやめようとは思いませんでした。いまは自家栽培のにんにく酢に唐辛子を入れたものやEM菌などで病害虫防除をしています。 夏いちごは涼しい気候を好みます。栽培適温は25度以下が望ましいのですが、最近は青森も暑く、ハウスの中が42度ぐらいになってしまいます。いちごは暑すぎると高温障害が出て、表面の粒が飛び出して食感が変わってきます。あまり暑いと蜂も動いてくれなくて苦労します。 いちごはハウス3棟で、1反歩もありません。いずれ5、6棟ぐらいに増やしたいですね。
にんにくや野菜も有機で栽培
圃場全体の面積は1.8町歩ほどです。害虫にやられてしまうと売り物にならないので当初、一部は慣行の圃場にしようかとも思いましたが、3年前に畑全体で有機JAS認証を取りました。 メインは1.5町歩のにんにくです。市の認定農業者になるには5反歩ぐらい必要ということで、就農時は慣行栽培でにんにくを始めました。除草剤とにんにくの種を一緒に撒きながら作っていたんです。芽吹いてきたら、さらに薬をかけて、それが普通だと思っていました。 最初は8トンぐらいとれたのが、肥料がないせいか、粒がどんどん小さくなって収量が減り、今年は4トンより少ないくらいです。ここを乗り越えると、少しずつ大きくなっていくはずだと周りから言われるので、いまは耐えどきです。収量は落ちましたが、実はしまって、おいしいです。 畑は5反歩ぐらいです。いちごとにんにく以外の野菜を家庭用として作り始め、じゃがいも、さつまいも、大玉やミニのトマト、きゅうり、おおまさりなどの茹で落花生、枝豆など、だんだん種類が増えました。 有機の種の交換会で手に入れた種や自分たちで種取りしたものを植えるので、季節によってあれこれ変わります。種を貯めて取ってあるからいらないのに、食べると種を必ず取るのがクセになっています。 細長くて中がオレンジがかった黄色で種が多い在来種の嘉宝スイカや、歯応えがもちもちっとした黒とうもろこしも無農薬の放任主義で育てていますが、もうそろそろ収穫かなあというときに、猿やアナグマなどの動物に狙われてしまうので頭が痛いですね。
農業の醍醐味と今後の展開
自分で農業を始めて、農業ってこんなに大変だったのかと感じました。楽しいときもあるし、苦しいときは苦しい。有機の農産物を売り物にするのは本当に難しくて大変です。自分を褒めなきゃいけないですよね。 お金にも苦労します。人手を集めるのにもお金がかかるし、機械も必要です。去年は倉庫がアタッチメントやトラクターごと雪で潰れてしまいました。その前の年に保険を解約していたので、余計に出費がかさみました。 それでも、自分たちもおいしいものを食べられるし、お客さんがおいしいと言ってくれることが農業の醍醐味です。薬が入っている野菜には苦味があるというか、えぐいというか、自分も昔は感じなかったけれど、味が違います。自分が作った野菜を食べて、わかるようになりました。うちではお客さんに出せないような、穴の空いた野菜ばかり食べていますが、おいしいですよ。 今後の展開としては、有機いちごジャムなど、加工部門を増やしていきたいですね。カットにんにくなど、他の野菜も6次化して、冬に加工ができればいいなと思っています。みんなを健康にしたいというのが夢です。イベントに出ていろいろなお客さんとつながりたいし、有機をもっと勧めていきたい。農福連携にも協力して、社会参加したいと考えています。
「年に2回開催している収穫・植え付け体験を継続しながら、即売所を設けて、ジェラートなども販売したいですね。周りにお花を植えて、気軽に野菜を買ったり体験したりできるような寛ぎのテーマパークを目指したい。ドッグランもあるといいな。夢は壮大に、有言実行です」