全国でも稀な有機JAS認定の桃栽培に挑む

全国でも稀な有機JAS認定の桃栽培に挑む

Farm Letter vol.013 エコファームMITANI 

  瀬戸内の温暖な気候の下、全国屈指の桃の産地として知られる岡山県。ほんのり紅がかった白い果皮が特徴の「白桃」が有名で、その最高峰に位置するのが高貴な「清水白桃」だ。倉敷市で最も作付けが多い品種で、国内第1位の生産量を誇る。均整のとれた姿形と甘い香りのとろけるような果肉は多くの人の心を捉え、その名をとどろかせている。
 高温多湿の亜熱帯気候の日本では病虫害の被害を受けやすく、一般に栽培される桃には収穫までに20回以上の農薬が散布されるのが通常だ。低農薬にすることすら難しい。
 倉敷市玉島で、日川白鳳、加納岩白桃、白鳳、清水白桃、黄金桃、恵白桃の6品種を栽培しているエコファームMITANIの三谷幸子さんは、有機・特別栽培で桃を育てることにチャレンジして23年。手間を惜しまず愛情を降り注ぎ、平成19年に桃の有機JAS事業者に認定された。全滅する恐れと毎年戦いながら、「加納岩白桃、白鳳、清水白桃」の3品種を有機で栽培し続けている。


桃の木本来の力を信じて

【エコファームMITANI 三谷幸子さん】

有機栽培の桃という険しい高みへ

夏の収穫のときだけ一カ月ほど休みをとって両親の農作業を手伝っていたのですが、私が27歳のときに父が脳梗塞になり、一生懸命育てていた桃の木を切ろうかということになりました。それは忍びなくて、私に桃農家が務まるかわかりませんでしたが、始めたら意外に性に合っていたようです。
 当時は当然、慣行栽培で除草剤をまき、父は1週間に1回ほど防除をしていたと思います。18キロぐらいのタンクを背負って一圃場で4〜5回、除草剤をまくと、若くても腰や背中が痛くて、4反歩もするのが苦痛でなりませんでした。普及所の指導員の先生から草生栽培をやってみないかと声をかけられたときに、草刈りも大変そうだと思いながらも、草生栽培を選びました。その後、化学薬品は使用せず、JASで使用が認められた一部の資材のみで栽培に取り組みましたが、その年は虫が来るし菌が来るし苦情は来るし、ひどかったですね。収穫もゼロでした。最初の年が最悪なだけで次第にどうにかなると思い、いまに至っています。
 有機栽培の圃場は2カ所ですが、全滅して収穫できないこともあります。有機だけでは食べていけないので、全圃場約2ヘクタールのうち、30アールを有機にして、特別栽培の桃も育てています。


信頼に応えるために最善を尽くす

 有機栽培を始めた当初、桃の木の切り口に塗布剤を塗らなくてはいけないと思い込み、ベンガラやチタンを試しましたが、切り口近くがぷっと膨れ、木がいやがります。何をやってもだめで、「かすり傷程度は舐めたら治る」と昔言われたようにほったらかしてみて、何もしなくていいとわかりました。有機の古い圃場の方は20年経ち、棲む虫の種類が変化して、アブラムシが来ることはほとんどありません。土や木が自力で防御しているようです。
 有機栽培で作られた清水白桃は繊維質がきめ細やかで口どけがよく、ずっしりと重量があり、同じ大きさの桃より早く水に沈みます。また、害虫を寄せ付けないよう、表面がけば立っています。
 雨が多いと水太りして味が落ちます。雨続きだった最初の年、廃棄を覚悟してお断りの電話をお客さんにかけたときに、「そういう年もあるよ。出荷して」と言っていただけたことが忘れられません。実は私、桃が嫌いで普段は食べませんが、雨が続く年は収穫のタイミングを見つけるために、たくさん食べます。励まし、信用してくださったお客さんを想えばできます。桃は安いものではないので、買った方を絶対にがっかりさせたくありません。贈り手の気持ちが台無しになりますし、贈られた側をぬか喜びさせるのはいやなんです。


仲間を増やし、全圃場をいずれ有機に

 桃を育てて収穫し、食べたお客さんが喜んで、「おいしかったよ」「ありがとう」と声をかけてくれたりすると、最高に「嬉しい!」という気持ちになり、がんばろうという意欲が湧いてきます。
 自分で食べるなら梨が好きです。この辺りは「愛宕梨」という赤ちゃんの頭ぐらい大きな梨が作られていて、私も近所のおばあちゃんから畑を預かって4年目です。梨は桃以上に防除する果樹です。「梨を食べたいな」と農薬アレルギーの知人がぽろっと言ったのが気になり、試しに1本だけ農薬を使わずに栽培しています。順調に育って10月に無事に収穫でき、喜ばせられたら嬉しいですね。
 私もだんだん年をとってきているので、若い人に有機の桃の圃場を引き継ぎたいと思っています。この辺一帯は水がきれいで、昔は細い糸トンボがたくさん飛んでいました。防除していたときには全然見かけなかった虫も戻ってきています。若い人に里山の良さをもっと知ってもらいたいし、薬をたくさん使わなくてすむ農業をしたいという、自分と同じような感覚の仲間が増えてほしいと願っています。5年後ぐらいに自分の全圃場を有機栽培にしたいというのも目標のひとつです。


夫婦一緒に働く至福の時間

 「失敗したら梅干しを見ながらごはん食べて、ちょっと儲けが出たら梅干しかじりながらごはん食べればいいか」という行き当たりばったりの性格なので、主人から「お前は考えない」と言われます。でも、細かく計算して先まで考えすぎていたら、ここまで続けてこられなかったかもしれません。
 定年退職した主人と一緒に農業をやれる時間が増えて、すごく嬉しいんです。主人はとても研究熱心で、作業も判断も的確にしてくれます。一人で思い悩んでいたことにも意見がもらえます。主人が仕事をしていたときは、「朝出て行ったら夜まで帰らないなんていやだな」と思っていました。いまも週に一度は会社に行くので「まだ行くんかなぁ」という気持ちになります(笑)。
 病気でも虫でも天候でも、毎年いろいろと問題があります。ずっと順調だったのに収穫直前に台風が直撃する年もあるし、完全勝利することはなくて、いつも「負けた」感があるんです。来年は絶対勝ってやる! そう思うと、やめられません。


有機にこだわり、独自の方法を編み出す

エコファームMITANI 三谷英明さん

  有機の圃場には3種類の木が植わっています。中央の白鳳と清水白桃を守るため、加納岩という早生種を害虫の誘引目的で外回りに植えています。摘蕾、摘果を経て、残った幼果に、太陽光を90%以上通す白い素材をかぶせ、ゾウムシやカメムシなどの虫が突いても刺せないくらいふわっとくるみ、自然の恵みを阻害しないように玉を養生します。玉がある程度大きくなったらハサミで割って種の状態を見極め、タイミングよくオレンジの袋にかけかえていきます。薬ではなく手間をかけ、オリジナルの方法で虫対策をしています。
  うちは草生栽培で除草剤を使わないため、害虫が異常発生することもありますし、鳥害や細菌にも注意が必要です。木が力をつけてセルロースを出せるようになると葉っぱや果実の周りに樹膜を張り、虫が来なくなります。木そのものの対抗性を強くするためには地力も整える必要があります。
かみさんは葉の色や触った感触で木の状態をみます。長年桃を栽培しているかみさんにかなわないのは感じとる力です。ただ、積算温度の分析や作業効率を上げるスケジュール管理などの計画性がないので、農産物直売所で働いていた経験を生かし、協力しています。


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エコファームMITANI
岡山県倉敷市玉島陶3547-1



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