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記事: 自然園いしわた農場 farm letter vol.53

自然園いしわた農場 farm letter vol.53
神奈川県

自然園いしわた農場 farm letter vol.53

 土と創る.53 小田原キウイフルーツ (PDF版ダウンロードはこちらから)

果樹を無施肥で栽培する有機農業の第一人者

  農林水産省は2021年に「みどりの食料システム戦略」を策定し、有機農業の面積を2030年に6万3000ヘクタール、2050年までに100万ヘクタール(全農地の25%)へと拡大する目標を掲げた。
 2020年度の有機農業の取組面積は2万5200ヘクタール、過去10年で約5割拡大したものの、全耕地面積に占める割合はわずか0.6%弱に過ぎない。イタリアの16%はもとより、世界平均の1.6%と比較しても低い水準だ。
 神奈川県小田原市で300年続く農家の15代目、石綿敏久さんは有機農業を始めて約40年。キウイフルーツを日本で最初に無施肥で作ったことで知られ、キウイフルーツを筆頭に、レモン、ライム、レモンライムなどを農薬、肥料、除草剤すら使わず、草生栽培で育てている。
 「小田原有機の里づくり協議会」代表として、安心安全な農産物を作る仲間を増やそうと、有機農業参入希望者への実習指導、技術確立、普及啓発に邁進している。多忙を極めても、25年ほど前から始めた地元の小学生への有機農産物づくりの指導は、「教えがいがある」と継続中だ。
 持続可能な農業と社会を実現するために里山再生にも取り組み、11年前からは息子の信之さんとともに、環境に配慮した農業に尽力している。

温暖な気候や自然環境に加え、有機農業の先駆者である石綿さんが地域の生産者に技術を伝えているため、小田原は日本有数のオーガニックキウイフルーツの産地。石綿さん親子の作る有機JASキウイフルーツは皮ごと食べられるのが特徴だ

→自然園いしわた農場の商品ページへ


持続可能な有機農業の拡大に向けて

【自然園いしわた農場 石綿敏久さん】

慣行栽培から無施肥の有機栽培へ

  日本はオーガニック市場の拡大を目指して「みどりの食料システム戦略」を進め、スーパーマーケットなど、売り手の側も有機農産物を意識して扱うようになってきました。環境にやさしいものに関心を持ち、高くてもよいものを選ぶ健康志向の消費者が増えています。
 神奈川県で有機JAS認証を取得した農家は31人で、20人が小田原にいます。私自身は肥料や農薬を使う慣行栽培から無農薬で有機肥料の有機栽培、無施肥で農薬を散布しない有機栽培へと約40年前に切り替えました。


有機農業の課題

  国がオーガニック関連の補助金を出したからといって、簡単に有機農業の生産者や面積が増えるわけではありません。小田原には多くの団体が農業視察に来るため、私が会長を務めている小田原有機農法研究会は産地の模範となるよう努力して活動しています。人数や面積は増えてはいるものの高齢化が進み、現役メンバーが引退すれば後継者がいません。後継者不足は有機農業に限らず深刻です。
 有機栽培を始めたい若い人が増えているのはいい傾向ですが、軌道に乗せるまで四苦八苦しています。全国で実績を上げているグループのほとんどは有機栽培技術を持つ農家が指導しています。普及員や大学の先生の話ではなく、有機農家の実績を見て初めて、「これならいける」と自信を持ち、安心します。地域の有機農業実践者の技術とノウハウは重要です。
 自然相手に仕事をするのは本当に大変で、年季が入っている我々でさえ、お天道様には勝てません。


オーガニック市場の今後

  コロナ禍を経て、健康によくて安心安全なオーガニック製品を多くの消費者が求め始めました。  最近この地域で、アイス工房の社長が有機のライムで試食のアイスを作ったり、化粧品の材料にオーガニックが求められたり、有機農産物の需要が増えています。お客様の要望の増加が、オーガニック市場の成長を後押ししているのです。
 いま時代が急速に変化し、オーガニックへの注目度が高まっています。有機農業は自然に左右されるので、年数を重ねないとわからない部分がたくさんあり、経験豊富な我々専門家が頼りになります。
 少し重荷ではありますが、古くから有機農業を実践してきた者として、その宿命を背負い、倒れるまで現役を貫きます。

「栽培方法の違うキウイを常温密封して 10 年ほど 保存する実験をしてみたところ、慣行栽培のキウ イ(左)は 2、3 年で液体状になって匂いがひどく、 肥料を多く施用した有機栽培のキウイ(中)も腐敗します。無施肥 の有機栽培キウイ(右)だけは形が残って匂いもせず、カビも生えません。人間の体同様、栄養は摂りすぎ てもよくないとわかりました」と、石綿さん


獣害を解消して環境保全を図る

【自然園いしわた農場 石綿信之さん】

密度分析で鹿を効率よく捕獲

  11年前の就農と同時に獣害対策を始めました。10年ほど前は猪による被害がほぼ100%でしたが、6、7年ぐらい前から鹿が増えてきました。人家の近くまで来るため、単に農業だけの問題ではなく、柵で防護するというわけにいきません。捕獲方法として檻よりも罠の方が調子がよかったので、シフトしていきました。
 畑を中心に山中にもカメラを何台か仕掛け、鹿が通るルートや面積あたりの密度分布を独自で調査し、統計学を応用して分析しました。ただ捕獲するだけではなく、証拠を取って調べているのが私一人だったせいか、東京農業大学の熊研究の第一人者である先生が話を聞きにいらして、いろいろ教えていただきました。
 獣害対策が功を奏し、麓の方ではだいぶ改善が見られたものの、山の中腹では林業の被害がかなり多くあります。地域の状況を情報交換するうちに、畑の周りの密度分布をもとに山の調査もするようになり、メンバーも増えていきました。
 リソースをうまく分配する方法を模索し、少ない人数で効率よく捕獲できるようになりました。累計で猪と鹿を300~400 頭ほど捕獲する成果を上げています


生産力向上と規模拡大

  人口減少社会において、生産力をどう増やすかが今後の課題です。同時に、近頃は気候が読みづらくなりました。収穫間近にならないと結果がわからず、これから農業を始める方は大変じゃないかなと危惧しています。
 私が就農した頃に比べて、有機 JAS の圃場面積は 2倍から3倍くらいになりました。機材の導入や設備投資により、効率が向上し、面積拡大にもかかわらず、作業をスムーズに進められるようになっています。
 果樹は生育に時間がかかりますし、規模拡大には法人化も必要になってきます。就農時に想像した以上に課題は山積みですが、急激な気候変動の対策を進めつつ、圃場の拡充に焦点を当てて頑張りたいです。

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清里ミルクプラント farm letter vol.56
山梨県

清里ミルクプラント farm letter vol.56

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