コンテンツへスキップ

カート

カートが空です

記事: ファームモチツモタレツ ファームレターvol.55

ファームモチツモタレツ ファームレターvol.55
北海道

ファームモチツモタレツ ファームレターvol.55

 土と創る.55 長沼平飼い有精卵 (PDF版ダウンロードはこちらから)


鶏の自由を尊重し、平飼いで慈しむ


 日本の養鶏場の約94%は採卵鶏をバタリーケージで飼育している(2020年・国際鶏卵協会)。ワイヤーの檻を連ねて幾段にも重ねる鶏の集約飼育方式で、アニマル・ウェルフェアという動物福祉の観点から欧州連合(EU)では2012年に禁止されている。米国ではマクドナルドなどのグローバル企業が率先してケージ卵を平飼い卵に切り替えると宣言、オーストラリア、タイ、韓国など、各国で抑制の動きが強まっているが、日本には最低基準がない。
 ケージ飼いは作業効率がよく、コストを削減できるため、卵の大量生産と安価な供給を可能にする。日本での鶏1羽あたりの標準飼養面積はB5判ほどで、身動きが取れないほど狭い。病気を予防する目的で抗生物質や抗菌剤を与えられ、ストレスがほかの鶏への攻撃行動につながりやすく、80%以上の農家が鶏のクチバシを切断している。
 北海道長沼町で養鶏を営む「ファーム モチツモタレツ」の高井一輝さんは鶏が自由に過ごせるよう鶏舎内で放し飼いにし、妻の真実さんとともに大切に育てている。通常は多数必要なワクチンや抗生物質なども使用しない。
 ケージフリーの卵しか取り扱わないと表明する大手企業が増え、ケージ飼育廃止の世界的な潮流が日本にも浸透すれば、いまだ少数派の平飼いが増えていくだろう。日本の養鶏業は大きな転換点を迎えている。

日本の養鶏場1戸当たり平均飼育羽数は7万羽以上だが、ファーム モチツモタレツでは約2000羽の鶏たちを夫婦ふたりで世話している


→ファームモチツモタレツの商品ページへ


健康な鶏の鮮度抜群の自然卵を味わってほしい

ファーム モチツモタレツ 高井一輝さん


音楽から農業へ、3.11が人生を変えた

 音楽がずっと好きで、音楽だけできればいいという生き方が、2011年3月11日の東日本大震災で根本的に変わったんです。その頃は彼女と世田谷に住んでいて、パニックを見越してスーパーに買い物に行ったら、すでに何もない。一軒家の人たちは車に荷物を乗せて避難し、誰一人いないという衝撃的な光景でした。
 小さい頃に札幌に住んでいたせいか、地震直後から北海道に移住したいと思うようになりました。漠然と食べ物に関われる場所に行きたかった気がします。入籍して札幌に移住したのが10年以上前、30歳を超えていました。
 証券会社の電話番の仕事を2年半ほどした2015年の元旦あたりに、新規就農5年目の長沼町の野菜農家の求人に応募して採用されました。従業員として1年半働き、1年間分を2、3か月で稼がなければならない野菜農家は失敗が許されないと痛感しました。
 野菜農家での独立を諦めていたときに、同じ町内の養鶏農家を訪ね、平飼い養鶏を知りました。養鶏は楽だろうと親方の魔法にかけられてしまった感じです。あとから考えると甘かったですね。


養鶏農家として無借金経営を貫く

 その親方のところで研修させてもらったのですが、僕の鶏ではないと半分他人ごとで接していたのをすぐに見抜かれ、最初の頃は毎日「お前、もう来なくていい」と言われていました。続けているうちに面白くなってきて、意地でも就農したくなり、ノウハウを完全コピーしようと食らいついて教わりました。
 2年間の研修を経て、新規就農者認定をもらって独立、最初は親方から廃鶏を譲ってもらい、200羽からのスタートです。
 新規就農者のなかでは最初からかなり順調に行った方だと思います。普通の野菜農家の半分も自己資金がないようなレベルだったのですが、やりくりできるように緻密に計算し、借金せずにギリギリやってこられました。
 養鶏を仕事としてやり始めた2019年から、卵は1回も余らせたことがありません。持ち運べないぐらい殻が薄い卵でない限り100%売り切りました。毎日卵を産んでくれるので、絶対売らなきゃいけない。産んで1週間以内に全部の卵を出荷すれば、やっていけるだろうと思っていました。鮮度はすごく大事です。
 産みたての卵は生で食べて、もちろんおいしい。でも、火を入れたときに意外と真価が問われる気がします。ちゃんとしたものを食べて育っている鮮度がいい卵の白身のプリッとした食感、ぜひ味わってもらいたいですね。


薬を使わず、新鮮な飼料で平飼い

 生まれた当日か翌日のひよこのときから育てます。成長した鶏はワクチンや抗生剤を処理されているからです。薬に頼らず、健康的に育てるのがこだわりのひとつです。4月と9月、半年ほどずらして2回ひよこを迎え、年間通して卵の量を安定させます。ひよこを育てるには温度と湿度が重要で、適正に維持しながら換気します。
 鶏舎内は放し飼いで、止まり木がたくさんあります。日陰で育てるのがセオリーですが、僕は日当たりを重視しています。眩しければ板を貼った日陰で休めますし、ある程度乾燥していないと、すぐに風邪を引いてしまうからです。
 飼料の鮮度にもこだわっています。カビが生えた米糠など、変なものは食べさせません。穀物は擦るとすぐ劣化するため、丸麦のまま与えます。近郊で焼いてもらっている良質な道産きな粉など、95%ぐらいは新鮮で安全な地元の素材です。鶏の健康のために何が必要かを考え、手間暇かけて自家配合し、ナチュラルに育てています。


課題は飼料の値上がりと休養

 最近は飼料の値上がりがすごいことになっています。仕方なく、卵の値段を25%ぐらい値上げしました。鳥インフルエンザで卵不足になったことを機に、卵自体の価値が底上げされたのは運がよかったです。振り返ってみると始めたときからのお客さんばかりで、値上げも許してくださり、皆さんのおかげでこれまでやってこられました。
 初年度と2年目は土日も休まずに実働5000時間、ふたりで1万時間超えました。帰ったら気絶するような生活が2年間続き、超絶スーパーブラックです。朝食は食べず、起きて30分後には鶏舎にいます。 朝6時半から、配達の準備があるときは21時や22時、ないときは19時か20時まで働き、1日1.5〜2食です。体力的にきつくて、ふたりとも夜ご飯を食べながら寝てしまうこともあります。同じ5年間は二度とできません。
 有精卵の表示基準であるメス20羽に対しオス1羽の割合で、1500から2000羽が3棟の鶏舎にいます。この規模で人を雇うのは精神的にも金銭的にも負担が大きすぎて無理かもしれません。  僕は配達で外に出られますが、かみさんはずっとここにいるので、視野が狭くなってしまうのもよくないですし、休養や息抜きが今後の課題です。大きくするつもりはなくて、僕らはふたりで世話して売るサイクルをできる限り長く続けていきたいです。
 養鶏だけではなく、音楽でもなんでも一生懸命がんばると楽しいものですよね。適当ではなく、きちんと働いているからこそ、お客さんに会って話して卵の評判がいいと嬉しいし、やっていてよかったと思うのはそういうときです。「いつ食べても必ずおいしい」というお客さんの言葉が本当に励みになります。単純ですね。


動物に囲まれ、マイペースで仕事に取り組む

ファーム モチツモタレツ 高井真実さん

 北海道は食べ物もおいしいし、楽しく暮らしています。もともと動物が好きで、犬やインコを飼っていました。いま、番犬のチッターとクーは友人のような存在です。とはいえ、鶏はペットのレベルではなく、卵を産ませて売る責任があります。
 東京では病院勤務の栄養士として働いていました。どちらも食べ物に関わる仕事ですけれど、いまの方が自分のペースでできるので、合っているのかなと思います。
 長沼におしゃれなカフェが増えて、うちの卵を扱っていただいているので、行く理由ができるのは嬉しいですね。


Read more

前田農園 ファームレター vol.54
中国四国地方

前田農園 ファームレター vol.54

 土と創る.54 北栄町ごぼう肉みそ (PDF版ダウンロードはこちらから) 自家製野菜や調味料を無添加の加工品に結実  中国地方最高峰、標高1,729mの大山山麓に位置する鳥取県中部の北栄町(旧大栄町)は、質量とも西日本を代表するスイカの大産地。スイカの交配時期にあたる4〜5月の天候がよく、火山灰土壌の有機物を多く含む黒ぼく土と昼夜の寒暖差が安定したスイカ栽培を実現している。  トップブラ...

もっと見る